ラグビーワールドカップでのジャパンの戦いが終わりました。戦前、決勝トーナメント進出を期待していた人はいても、まさか現実になると予想していた人は少なかったのではないでしょうか。今回のジャパンの活躍によって、日本ラグビー界がこれまでに抱えてきた危機を救うことができるのか、これからの舵取りが重要になると思います。
日本ラグビー協会によると、2018年度の協会登録者数は108,796人で、これは日本国内においては競技として10位以内にも入らないのが現状です。1位はサッカーで約99万人、2位はバスケットボールで約64万人、近年人気が高い卓球は約33万人、バドミントンは約26万人となっており、国民の熱狂とは裏腹にラグビー界の現実の厳しさを物語る形となっています。(※各競技人口は2017スポーツ白書の統計による)
かつて日本では、国立競技場を満員にできるコンテンツはラグビーの試合しかないという時代がありました。12月の第一週日曜日に行われる、早稲田大学対明治大学の「早明戦」は人々が徹夜でチケットを買い求め、試合前日から良い席を確保するために学生と中高年のラグビーファンが入り交じる中、再び徹夜で夜通し酒を飲みながら列を作って並ぶという光景に象徴されるように、プロ野球がシーズンオフに入った中でラグビーは冬のスポーツの代名詞となっていました。また、高校野球の「甲子園」同様、高校ラグビーの聖地と言えば「花園」ですが、その花園を目指す高校ラグビー部を背景とした青春ドラマ「スクールウォーズ」は社会現象となる大ヒットとなり、当時ラグビーはプロ野球に次ぐコンテンツとして世間に認められていたと言っても過言ではありませんでした。
しかしながら、1993年にJリーグが開幕すると、徐々にその人気が陰り、2強と謳われた早稲田大学、明治大学がともに新興大学に押されて優勝争いをすることができなくなるにつれ、かつてのような盛り上がりはなくなってしまいました。ラグビーが人気コンテンツではなくなってしまってから四半世紀ほどが経過し、日本ラグビー協会は厳しい現実と対峙しなければならない状況となっていたのです。
そんな中で、今大会の日本戦の視聴率は初戦のロシア戦こそ18.3%でしたが、その後は勝利を重ねるごとにうなぎ登りとなり、最後の試合となった準々決勝の南アフリカ戦では41.6%とテレビ局の予想を大きく上回る結果となりました。グループ1位通過を予想していなかった日本テレビでは南アフリカ戦を放送することができず、急遽NHKが放送する事態となるほどの大躍進でした。
この熱狂の余波をいかに今後に活かすことができるかが、ラグビー人気を完全復活させる上で重要になってくると思います。日本ラグビー協会は、2021年度にプロ化を目指して準備している最中です。現状は企業チームによるリーグ戦(トップリーグ)が行われており、2018-2019シーズンは神戸製鋼が優勝、新シーズンは2020年1月に開幕します。以前はラグビーよりも不人気競技であったサッカーがJリーグの誕生によって日本代表強化に繋がり、興行面でもプロ野球に次ぐ観客動員数を収めている他、バスケットボールがBリーグの成功によりJリーグ同様、代表強化と人気獲得に繋がっていることもあり、ラグビー人気の復活をプロ化に懸けていることが窺えます。今現在のトップリーグの観客者数は約5,000人ですが、憂慮すべき点はその平均年齢が約50歳と年々高齢化していることに加え、男女比率は7:3で男性のオールドファンが圧倒的に多いということが挙げられます。今大会でいわゆる「にわか」ファンとなった若い女性を中心とするファンをトップリーグに引き込み、プロ化を成功に導けるかどうかが大事になってきます。
今回ワールドカップに選ばれた選手は全員がトップリーグの選手であり、新シーズン当初はマスメディアも注目することで過去最大の盛り上がりをすることが予想されます。しかしそれ以上に大切なのは、私がスポーツマネジメントに最も必要不可欠であると考える「普及」に力を入れていくことではないでしょうか。競技が成功するのに最も重要なことはラグビーの競技人口を増やすことです。どの競技においても経験者がその後ファンになる確率が高いことは研究でも証明されています。ファンを増やすためには、いかに競技人口を増やすかということが最重要課題なのです。
日本ラグビー協会がどのような仕組みにするのかはまだわかりませんが、JリーグやBリーグのような地域に根差した形にするのか、プロ野球や卓球Tリーグのような企業型にするのか。現在の既得権益や慣習を捨ててでも、日本中に感動を生んだ今回のジャパンの戦いぶりのように、ファン獲得に向けて『One Team』で全精力をかける一枚岩の組織となって、ラグビー人気の完全復活を目指してほしいと切に願います。
著者プロフィール
佐々木 達也(東京都出身)
・城西大学 経営学部 准教授 スポーツマーケティング・マネジメント分野領域を専門とする。
・早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業。早稲田大学スポーツ科学研究科修了。
・大手総合広告代理店にてスポーツに関する業務に携わり、Jリーグクラブ勤務後、金沢星稜大学人間科学部スポーツ学科講師を経て現職。現在もJ2ツエーゲン金沢シニアアドバイザーを務める。