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首の機能解剖とマッサージを行う上での注意点

首の機能解剖とマッサージを行う上での注意点

 大阪体育大学・同大学 教授 下河内洋平

PhD, ATC, JATI-AATI

 

はじめに

首は身体の司令塔である脳が格納されている頭部を支える部分であり、筋肉、神経、血管など重要な組織が複雑に絡み合っている身体部位です。この部位に問題が生じると、身体の様々な部分に問題が生じます。首はこりやすい部位でもあるため、私達がマッサージをよくする部分でもあります。しかし、首は非常にデリケートな部分ですので、下手にマッサージや無理なストレッチなどを行うと、さらに症状が悪化してしまうこともあります。

私はまさに症状を悪化させてしまった一人です。私は若いころ体操競技を行っていましたが、体操競技は首や腰に大きな負担をかける競技ですので、恐らくそれが原因で私の首は後述するストレートネックになっています。ストレートネックの人は首の筋肉が局所的に痙攣しやすいことが知られています。私も例外ではなく、40歳あたりになったころ、子供と登り棒をして遊んでいた時に、突然首に激痛が生じ、その後2年間くらい首から腕にかけて、かなりの痛み(放散痛)が持続していた時期があります。余りに首が痛いので、無理やり首をゴリゴリとマッサージしたところ、痛みが減らないばかりか腕に力が入らなくなってしまったという痛い経験があります。最もひどかったときは、100回はできていた腕立て伏せが一回もできなくなり、クロスバイクに乗ると肘を伸ばして腕で上体を支えられなくなり、というようなひどい状態になりました。その後、姿勢改善を試みたところ症状は改善し、現在はほぼ首には痛みもなく、腕の筋力も逆立ちのまま腕立てが10回くらいはできるほどに回復しています。

そこで、本コラムでは、3回のシリーズで首の負担を取るための注意点や運動について解説したいと思います。初回の本コラムでは首の支柱である頚椎の機能解剖を簡単に解説することで、マッサージなどを行う場合の注意点を考えてみたいと思います。

 

 

頚椎の機能解剖

脊椎は通常33個の椎骨からなり、上から頚椎、胸椎、腰椎、仙椎、尾椎の5つに区分されます(図1a)。脊椎は脳と様々な身体部位をつなぐ脊髄神経やそこから生じる末梢神経の根元部分を保護する重要な役割があります。脊椎の一番上部にある頚椎は7個の椎骨からなりますが、頭部を支えるのが主な役割のため、身体部位を支える役割がある胸椎や腰椎などよりも椎骨は小さくなっています。さらに、頚椎は脊椎のなかで最も大きな動きを行う関節でもあるため、椎骨の中で最も安定性を犠牲にしている部位であると言えます。

 

 

椎体と椎体の間には圧の分散や脊椎に動きを持たせる役割の椎間板があり、その後ろに脊髄神経が通る穴(椎孔)や脊髄神経に繋がっている末梢神経の出口(椎間孔)が形成されています(図2)。このような構造から、首周辺には筋肉だけでなく末梢神経の群がりが存在するため(図1b)、末梢神経の出口である椎間孔が狭くなったり、椎間板ヘルニアが生じたり、その周辺の筋が過緊張するなどの問題が生じると、末梢神経が圧迫され、手や腕に様々な神経症状(麻痺、感覚異常、痛み、筋力低下など)がでたり、下手をすると下肢にも歩行障害などの問題が生じることもあります。

 

 

 

また、頚椎は他の部位とは異なり、椎体の両横に突き出ている横突起の中に横突孔という穴があり、この中を椎骨動脈が頭部に向かって上行し、脳や脊髄に血液を運んでいます(図1b)。この動脈の血液の流れは首を伸展させたり回転させたりすることで阻害されることがあり、めまいなどが生じることもあります。

 

マッサージなどを行う場合の注意点

これらの機能解剖的特徴から、頚椎は安定性を犠牲にして大きな可動性を得ながらも、脊髄や末梢神経、動脈など極めて大事な身体組織を守っている部位であると言えます。それだけに、非常にデリケートな部位であり、マッサージやストレッチングを行うことで逆に問題が生じてしまうことがあります。

しかし、首まわりにこりを感じて首周りを頻繁にマッサージしたくなる人は多いと思いますが首周りをマッサージする時には注意が必要です。例えば、首にこりがあるときに、仰向けでツボ刺激のためのマッサージ器具を首の下において体重をかけてゴリゴリやることがありますが、このようなマッサージで首を過度に押しすぎるのは危険です。このようなマッサージは、そのときは気持ちよく感じるかもしれません。しかし、過度に首周辺に圧をかけすぎると頚椎まわりの神経などにストレスを掛けすぎてしまい、逆に腕に力が入らなくなったりしびれが生じたりと、神経症状を悪化させてしまうことがあります。

また、頭部が胸よりも前に突き出るような姿勢、例えば、高すぎる枕(図3)を習慣的に用いたり、頭を前に突き出して下を見るような姿勢を習慣化したりすると、様々な問題が生じることがあります。例えば、このような姿勢を長時間に渡り習慣的に行うと、頭部が前方へ突出するストレートネック(通称スマホ首)になるリスクを高めます。ストレートネックになると立位や座位などにおいて常に首の筋は頭部を支えるために収縮状態となり、首の筋肉の過緊張を引き起こします。さらに、このような姿勢不良は、椎間板ヘルニアになる危険性を高めます。首周りの筋肉の過緊張や椎間板ヘルニアなどが生じると、神経の根元部分が圧迫され、痛みやしびれ、筋力低下などの神経症状や、頭痛や吐き気などが引き起こされる場合があります。

さらに、首を過度に伸展させたり過度に横に曲げたりする動き(側屈)や姿勢も気をつけるべきです。首の過度な伸展や側屈は、上で述べた末梢神経の出口である椎間孔の面積を狭くします(側屈では倒した側の椎間孔が狭くなります)。これにより、首が過度に伸展または側屈すると、末梢神経の根元部分が椎骨に挟まれ、神経が損傷することがあります。ストレッチや運動を行うときや、仰向けでマッサージ器具を背中に入れてマッサージするときなどは、首が過度に伸展し、首の奥の方に痛みを感じることがあると思います。このような痛みが生じたときは神経が挟まれている可能性がありますので、痛みが生じるくらいに過度に首を伸展または側屈させるような姿勢を維持することは避けるべきです。

このように、首は非常にデリケートな部分ですので、首に問題が生じたら、医師に診断してもらうことが基本です。そして、首に常にこりを感じており、姿勢が悪いことを自覚している人は、まずはマッサージよりも姿勢改善を優先したほうが良いでしょう。

 

まとめ

首は非常にデリケートな部位で、しかも命に関わる重要な部位です。よって、過度なストレスを掛けるようなマッサージを行ったり長時間悪い姿勢で慢性的にストレスをかけ続けることは避けるほうが懸命です。無理な力での指圧や首をボキボキ鳴らすこと、悪い姿勢を維持することは絶対に避けるべきですし、不適切な高さの枕を使うのも避けるべきです。立ったとき、寝たときに姿勢の悪い人は自分の姿勢を改善することを優先的に行い、最も頸椎に負担がかからない適切な姿勢を常に心がけてみてください。もしかしたら、それが一番の問題解決の方法かもしれません。

著者プロフィール

下河内洋平

下河内洋平 博士

博士(Exercise and Sport Sciences)

現大阪体育大学教授。2003年にアメリカ合衆国ミネソタ州においてNATA-BOC公認アスレティックトレーナーの免許を取得。2006年にノースカロライナ大学グリーンスボロ校において博士号(運動・スポーツ科学)を取得後、2007年まで同大学においてフルタイムの Postdoctoral Research Associate として働く。2007年9月より大阪体育大学に就任し、現在に至る。非接触性前十字靱帯損傷予防のメカニズムの解明や、そのための合理的なトレーニング方法の開発などを研究テーマの主軸として研究活動を行っている。

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