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手首のケガやその予防方法

私たちの手首は、前腕部分で橈骨(とうこつ)尺骨(しゃっこつ)の二つの骨と根元部分の8つの小さな手根骨(しゅこんこつ)により構成されています(図1)。

図1.手首を構成する手根骨と前腕の骨(尺骨と橈骨)。Wikimedia Commons より引用。Creative Commons Attribution 3.0 Unported

前腕部分と手根骨が成す関節と、手根骨同士が作る関節により、私たちは手首を前後に曲げる動き(屈曲伸展)を行っています。また、尺骨の方へ手首を曲げる尺屈という動きや、橈骨側に手を傾ける撓屈という動きも行うことができます。

その他に、手首には手を前腕に対して回旋させるような“遊び”の動きも存在し、手首の捻じれが直接前腕に伝わらないクッション的な働きもあります。

また、手を上に向けたり、下に向けたりする回外回内という動きは、手首の運動と思われがちですが、これは、前腕を構成する尺骨と橈骨の橈尺関節による関節運動であるといえます。

このような特徴のある手首ですが、急性的にも慢性的にもケガをする可能性があります。

手首の急性のケガ

転んだ時などに生じる急性の手首のケガとして、手根骨の骨折があります。

転んで手を地面につき過度に手首を曲げるストレスがかかると、手首付近の手根骨を圧縮する負荷がかかります。これにより、手根骨骨折などが生じることがあります。

例えば、親指の根元部分にある舟状骨(図1)という手根骨は、転んで手をついたときなどに頻繁に骨折する骨です。この舟状骨は血液供給が少なく、一度骨折すると修復されにくい骨です。適切な処置や治療をせずにおくと、手首の安定性が下がり、慢性的な痛みや筋力低下を招いてしまう恐れがあります。転んだ時などに手を地面につき、その後に親指の根元部分に局所的痛みがある場合などは、必ず整形外科に行き、骨折の有無を確認する必要があります。

また、手首には非常に多くの靭帯や関節が存在します。この多くの靭帯や関節の存在のおかげで、私たちは手や手首を複雑に動かすことができています。しかし、転倒などで手をついたときなどに手首を過度に屈曲または伸展、または横に曲げすぎてしまうと、靭帯損傷が生じる可能性もあります。靭帯の完全損傷などが生じると、手首の不安定性や変形が生じてしまう可能性もあります。

手首を過度に曲げる負荷がかかった時に、手根骨の脱臼も生じる可能性があります。

例えば、月状骨は手根骨の中で最も頻繁に脱臼する骨です。これは、転んだ時などに手首が強制的に伸展させられた時などに生じます。この脱臼により、手の平を通る神経が圧迫され、手の平の感覚異常など神経症状が生じることもあります。

どのような急性の怪我の場合においても、局所的な痛み、腫れなどが生じますが、放置すると後に大きな障害が残る場合があります。必ず整形外科に行き、重大な急性外傷が生じていないか、医師の診断を受けることが大切です。

手首の慢性的なケガ

慢性的な手首のケガとしては、毎日長期間、繰り返し同じ動きや運動を行うことにより、手首に特定のストレスが継続的にかかり、手首に痛みが生じるというパターンもあります。つまり、何か手首を痛めるようなイベントが思いつかないのに、気が付いたら手首が痛いというような場合です。

例えば、毎日フライパンをもって鍋を動かす調理をしたり、パソコンのタイピングなどを毎日長時間行うなどは、手首を痛める原因になります。スポーツにおいては、ラケット競技や剣道、体操競技などの競技は、特に慢性的に手首にストレスをかけるため、手首の慢性障害を引き起こしやすいです。

手首の慢性障害として、手根管症候群というものがあります。これは、パソコンのタイピングなどで指を使いすぎたりした場合に頻繁に生じます。特に、運動をせず、首や肩回りなど身体の血行が悪くなった状態で長時間このような活動をする場合などに生じやすくなります。

これは、指を屈曲する筋肉の腱を囲む腱鞘が炎症を起こし肥厚し、その周囲の腱や神経が圧迫されること生じます。症状としては、手の平の根元部分などに痛みや感覚異常が生じ、筋力低下なども生じます。このような症状は、寝ているときなどに手首を曲げた状態にし続けると悪化する傾向がありますので、手首を中立位に保っておくために適切な手首のサポーターを行っておくということも、悪化させないための良い対策です。

また、スポーツやパソコンなどで親指を使いすぎると、親指を外側に曲げる長母指外転筋や短母指伸筋の腱を包む腱鞘が炎症して肥厚し、腱鞘を通るこれらの腱が圧迫され、腫れや痛みが生じることがあります。これをドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)(図2)といいます。スポーツにおいてはラケットを用いた競技などに頻繁に見られ、近年ではスマートフォンを親指で操作しすぎてドケルバン病になる場合もあります。また、女性ホルモンの変動もドケルバン病の原因になると言われています。親指を握ってこぶしを握り、小指側に手首を曲げると手首の痛みが増せば、ドケルバン病の可能性が高くなります。よって、長母指外転筋や短母指伸筋の腱鞘にかかるストレスを軽減させる手首のサポーターの装着は、症状の悪化を防ぐためには効果的だといえます。

図2.長母指外転筋(abductor pollicis longus muscle)と短母指伸筋(extensor pollicis brevis muscle)の腱。Wikimedia Commons より引用。

手首のケガの予防

スポーツにおける手首のケガの予防としては、

(1)手首をしっかりと鍛えること。

(2)手首のサポーターやテーピングなど適切なサポートを行う。

(3)手首の酷使を避け適切なケアを行う。

ということが挙げられます。

手首をしっかりと鍛えるということに関しては、特に伸張負荷を用いた手首のトレーニングが合理的だと考えられます。なぜなら、手首の靭帯損傷や骨折などは、大きな伸長負荷が手首にかかった時に生じることが多いし、腱鞘炎などの手首の慢性障害は、長期的に繰り返し伸長ストレスが手首をまたいている腱にかかった場合に生じるリスクが高まります。したがって、手首にかかりやすい伸長ストレスに対して抵抗力を高めるため、手首周りに適度な伸長負荷を与えて手首を鍛えることは、手首のケガの予防には効果的です。

手首のサポーターやテーピングを適切な方法で巻くと、スポーツ中に手首にかかるストレスを軽減してくれるだけでなく、関節の安定性を高めてくれることにもつながります。手首は足首などに比べると、どれだけ鍛えても弱い関節なので、必要に応じて適切なサポーターやテーピングを巻くことは手首のケガ予防の面から推奨されます。

最後に、手首の酷使を避けて適切なケアを行うことも重要です。ラケットを用いる競技や体操競技のような手首を酷使する競技においては、手首は慢性的に大きなストレスを受けやすい関節です。手首を痛める明確な出来事(転んで手をついたなど)が思い当たらないのに痛みが生じれば、それは過度なストレスを長期にわたって手首が受けすぎている可能性がありますので、そのような場合はすぐに手首にストレスを与えるのをやめ、痛みの生じない範囲での運動に切り替えるべきです。そして、アイシングやストレッチなど、適切なケアを行うべきです。

また、例えば、スマートフォンやパソコンを頻繁に使用する人は、肩や首周りの血行が悪くならないように、定期的に肩回りのマッサージや運動、ストレッチなどを行うことも手首の慢性障害の予防につながります。

また、運動や入浴などで身体を良く温めて筋肉をほぐすことも、手首の慢性的なケガの予防には効果的であると考えられます。

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著者プロフィール

下河内洋平

下河内洋平 博士
博士(Exercise and Sport Sciences)

現大阪体育大学教授。2003年にアメリカ合衆国ミネソタ州においてNATA-BOC公認アスレティックトレーナーの免許を取得。2006年にノースカロライナ大学グリーンスボロ校において博士号(運動・スポーツ科学)を取得後、2007年まで同大学においてフルタイムの Postdoctoral Research Associate として働く。2007年9月より大阪体育大学に就任し、現在に至る。非接触性前十字靱帯損傷予防のメカニズムの解明や、そのための合理的なトレーニング方法の開発などを研究テーマの主軸として研究活動を行っている。

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